株の売り時は欲張らず恐れず決める

株式投資では買いのタイミングよりも売りのタイミングの方が難しいと言われます。利益を伸ばすための売り時、致命傷を受けないための売り時を考えてみましょう。

売却ルールがリスクとリターンを確定させる

株式投資で成功するために重要なことは生き残り続けることです。長期的には絶対に勝てると言われるインデックス投資でさえ、レバレッジを掛けたETFに全資産を注ぎ込んでしまえば定期的な急落に耐え切れず退場を余儀なくされます。

2010年以降右肩上がりのS&P500指数ですら、短期的にみると20%を超える下落に直面していますからね。

退場を避けるためには厳密なリスク管理を行い、非常事態であっても生き残ることができる売却ルールを構築しておくことが重要です。特に個別株投資では「いつか買値に戻るはず…」と塩漬けしてしまうと、致命傷を負いかねません。

また「含み益は幻」と言われるように、利益が乗ってきた場合にも株を売って決済しなければリターンは確定しません。自分の投資戦略に合わせて適切なタイミングで利益確定できるようにしたいですね。

株の売り時はエントリー前に決める

毎日の株価や相場状況を見ながら売り時を考える方もいると思います。しかし行動経済学のプロスペクト理論を基に考えると、人間はポジションを持った状態で正確な判断を下すことはできません。

目先の利益に釣られ利益確定を急ぐ一方で、損失は小さなものでも不快で認め難く塩漬けし判断が遅れる傾向にあります。

損小利大が理想とされる一方で、人間は真逆の利小損大になる行動をとる傾向にあるのです。

プロスペクト理論という人間の習性に逆らって適切な判断を行う最も簡単な方法は、株を買う前に売り時を決めてしまうことです。このとき設定する売却タイミングは言い訳の余地がないものが好ましいです。

例えばIFD注文を使うことで購入と同時に売りの逆指値注文を出せば、ポジションを取る前に損切りラインを確定させることができます。また利益確定のルールを作る場合は「天井サインが現れたら売り」という曖昧な基準ではなく、「終値で10日移動平均線を割り込んだら大引けで売り」のような明確な基準が好ましいです。

以上のようにエントリー前に売り時を決めてもエントリー後に変更しては意味がありません。どうしてもルールが守れない方は痛い目に遭いながら経験を積むしかありませんが、効率的にルールを身に着けるためには投資に必要なマインドを理解したり、投資日記をつけることが有効です。

先人の経験を活用してルール順守の重要性を学びたい方は「株式トレード 基本と原則」や「トレーディングエッジ入門」がおすすめです。

売り時は投資戦略の一部分

このページに辿り着いた方は「いつ売ればいいのか明確に知りたい」と思いながら読み進められているかと思いますが残念ながら答えはありません。個人の性格やライフスタイルに合わせて再現性があって利益を積み重ねることができるルールを選ぶことが重要です。このとき参考となる観点を3つご紹介します。

売り時はトレードルールの一部

株式投資では株価が上昇すると思うから株を購入しますよね。この「株価が上昇する」と考える根拠は「25日移動平均線を上抜け」「支持線で反発」「カップウィズハンドル形成」など色々なものがあります。

どの戦略を選び極めるかは個人の自由ですが、戦略によって勝率と利益幅が異なることを認識しておく必要があります。利益幅が小さい傾向にある戦略をとるのであれば、損失も小さくなければなりません。反対に大きな利益を期待できる戦略であれば、余裕を持った損切りライン設定で利益を逃さないようにせねばなりません。

また投資判断が間違いであった(予想に反して株価が下がった)と判断し損切りすべきラインも、投資ルールによって異なります。バリュー投資の神様ウォーレンバフェットは大きな含み損に耐えて株価が企業価値を織込むのを待つスタイルですが、成長株投資で有名なオニールやミネルヴィニは損切りラインを厳しく設定しています。

この違いは投資ルールの違いに起因しています。

例えば成長株投資家の多くは「オニールの成長株発掘法」を参考に適切な買い場から-8%に損切りラインを、+20%に利益確定ラインを設定しているのではないでしょうか。オニールの損切りラインは適切な買い場で購入した場合に8%以上の調整が滅多に起きないという知見を基に設定されています。また利益確定ラインは+20%あたりで調整が始まることが多いという知見を基に設定されています。オニールの買いルールを踏襲した場合、利益確定+20%損切り-8%が成績を最大化できるということですね。

以上の文章を読んで売り時は「損切り-8%、利益確定+20%」と理解するのは間違いです。この数字は「適切な買い場」を基準としたものなので、買いのルールが変われば役に立ちません。「買いルール」の特徴を理解した上で「売りルール」を設定する必要があります。

利益確定はルールと資金効率で考える

天井で利益確定したいところですが、本当の天井がどこかは後になってみなければ分かりません。また天井でピッタリ売り抜けることを狙うと、欲に目が眩んで正常な判断ができない可能性も出てきます。一方である程度利益を伸ばさないと投資成績もよくなりません。バランスの難しい利益確定タイミングですが、参考になる2つのポイントをご紹介します。

目標株価と半益

バランスの難しい利益確定のタイミングですが、あくまで「トレードルール」の一部としてどうすべきかを考える必要があります。エントリー時に期待値を考えていれば、目標株価が定まっていることでしょう。晴れて目標株価に達したのであればできるだけ利益は確保していかなければ期待値を下回ってしまいます。「利食い千人力」を意識した行動が大切となりますが、保有株を全て売却してしまっては、その後の値上がり益を取り逃し悔しい思いをすることも多いです。

ここで有用なのが半益の考え方です。半益とは持ち株の半分を利益確定することを指します。上昇トレンドの途中で目標株価に近づいてきたら徐々に利益確定を進めることで、利益を確保しつつ更なる値上がりを狙うことができます。

例えば次のチャートを見てみましょう。

直近高値を超える6250円でブレイクアウトのタイミングを狙ったトレードをするとします。2020年末の最高値まで値上りすると売り圧力が出るので、目標株価は6900円に設定したくなりますね。

エントリー後は順調に株価が上昇していき、8営業日で目標株価に到達しました。目標に到達したのだから全て売却してもよいのですが、その後の値上りを見逃してしまう可能性を考えると悩ましいですよね。

このような場合に有効な作戦が半益です。目標株価に達した時点で保有株の大部分を売却してしまいましょう。半益することで、目標株価到達後にエントリーライン付近まで下落しても利益は残ります。また更なる株価上昇が起これば、上昇分の利益を得ることができます。半益は利益確保に加え、心の余裕を生み利益を伸ばすことにも有効です。

心にゆとりのある状態でチャートを分析し、天井サインを待って残りの保有株も売却しましょう。うまく利益を伸ばすことができれば成績は飛躍的に向上するはずです。

資金効率

テンバガーであっても一度の上昇トレンドで株価が大天井までたどり着くことはありません。多くの銘柄では短中期的な上昇トレンドの後に調整が起こります。例として100倍株のGMOペイメントゲートウェイのチャートを見てみましょう。

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2013年頃から株価は右肩上がりですが、よく見ると上昇期間(赤色)と調整期間(青色)の比率は半々です。また調整局面ではー50%級の下落に複数回直面しています(対数グラフのため分かりにくいですが)。チャートの右端では上昇継続中のため、2013年から握りしめていられれば大成功ですが、本当に可能でしょうか。調整期間も株を保有し続ければ、資金が増えないどころか50%のドローダウンに合うことになります。「いくら株価が下がっても気にせず握りしめる」という根性(?)のない方は、自分の時間軸に合わせて上昇トレンドの終わりが見えたあたりで売却を狙いたいですね。その後に大きな上昇が来るのであれば、また初動を狙えばいいのです。次の上昇トレンドが始まるまでは他の銘柄に資金を移して効率よく投資しましょう。

損切りはシナリオが崩れたときが売り時

売るべきタイミングは買った理由が否定されたときが最適なので人によって違います。例えば「25日移動平均線を上抜けた = 上昇トレンド開始」という理由でエントリーしたのであれば、上昇トレンドが終わったと判断した時点が売り時となります。上昇トレンドが終わったと判断する理由は各個人の売買戦略によるので何でも構いません。利益確定であれば「25日移動平均線を終値で割り込んだ」や「直近安値を切り下げた」といった理由が使えますね。損切りの理由は「エントリー価格に近い支持線を割り込んだ」などでよいでしょう。売り時を考える上で大切なのは、ルールに従って取引を繰り返すことで利益が積みあがっていくかという点です。10~20回程度ルールを守ってトレードを繰り返した後、成績を確認してみましょう。ルールを守ったにも関わらずトータルで損をしていたのならば、売買ルールに問題があります。適宜修正して自分に合ったルールを見つけましょう。

例えば成長株投資家の中には買値から8%下落した位置に損切りラインを置くルールを採用している方が多いと思います。これは成長株投資の名著「オニールの成長株発掘法」の著者ウィリアムJオニールが提唱している損切りルールに基づいています。彼が様々な銘柄のチャートを研究した結果、適切な銘柄を適切なタイミングで購入すれば8%下落する可能性が低いという事実を根拠としたルールです。彼の投資戦略では間違いを犯した際の損失が-8%に限定しながら利益は+20%超を狙うことで、利益を積み上げていくような投資戦略になっています。もしオニールのルールを採用して-8%に損切りラインを設定したとしても、利益確定ルールや勝率に課題があれば利益を積み上げることはできません。買いと売りのルールをセットにして投資戦略を考え、正解を探していく必要があります。

売り時に聖杯はない

株の売り時に絶対的な正解はありません。試行錯誤の中で再現性よく利益をあげられるルールを見つけていきましょう。

コメント

  1. ぼくろく より:

    オニール本を読んだ後ここを見つけていつも参考にさせてもらってます。
    今回もコラムも、最近売りきれず利益を逃した私には大変参考になりました!ありがとうございます!
    忙しいとは思いますが、体など壊さぬようご自愛ください。

    • けろ より:

      ぼくろくさん

      ご訪問いただきありがとうございます(/・ω・)/
      相場も現実世界もジリジリ焼かれるような日々が続いていますが気を付けていきましょう!

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